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頼まれて あるくしごとのさわすぢで ふと見りゃ鹿のされこうべ [展 心 徒 然 草]

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 測量屋の知人の手伝いで近場の山中の測量に出かけることがある.去年の秋口に3日ほど通った道志川左岸の測量中に、弁当をひろげた沢の中で 手を洗おうと沢にしゃがみ込んでふと見ると,何と程よくさらされた鹿のされこうべが静かにこちらを見つめているではないか.思いがけない出会いに、弁当そっちのけで拾い上げしばしその美しさに我を忘れる.どうあっても持ち帰りたいのだが,まだ午後の仕事が残っている.幸い大きめのウエストバッグを装着していたので,沢で汚れを洗い落とし何とか腰におさめて持ち帰ることができたのであった.それから半年あまり、家の庭先で雨風にさらしてようやくいい味に仕上がってきたところだ.
 この骨は角をのこぎりで切り取られている.おそらくハンターにしとめられ,肉と角を持ち帰られてこの場で朽ちたものだろう、ここで会ったが百年目、シカと使わせていただこう。.

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雨だれに 濡れた鉄肌ぬぐいつつ 旅立つわが子に化粧して泣く   [展 心 徒 然 草]

その壱
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 ”作品”と一言でいってしまえばそれまでなのだが、特別な思い入れのある作品に対して僕は冷静ではいられなくなる。この窓はそんなものの中でもひときわ思い入れの強い作品だ。
 制作したのはもう15年も前のことだ。東京の西の外れ、神奈川県との都県境近くにある和食レストランの明かり窓として制作依頼を受け、デザイン・制作した。
僕はとにかく真っ平らなものや真っ直ぐなものが大嫌いで、ガラスを嵌めろといわれてもハイそうですかと平らなガラスを入れようとは思えない性分なのだ。当然のことのように、局面のガラスを入れさせてほしいと頼み込んだ。どんな仕事でもこのような制作ができるわけでは決してない。この仕事は奇跡的に条件の整った仕事だった。
デザインを提出して施主と建築家の承諾を受け、意気揚々と制作に取りかかった。
 局面ガラスは鍛造のフレームが仕上がってから、フレームの内側から粘土で原型を取り、整形してから耐火石膏で雌型を起こす。その雌型に8ミリの平板ガラスをカットしたものを乗せて電気炉で加熱してスランピングする。しかもガラスの内側にはあらかじめグルーチップで模様を入れておくというおまけ付きである。
 
窓02.jpg
文字で書けばたいしたことはないようだが、この実制作は普通にはまず不可能なことなのだ。おそらく世界的に見てもここまでやる仕事は存在しないと思う。あり得ないことなのだ。そのあり得ないことを勝手にやってしまう自分が、少しでも怖いと思っていれば、僕は普通の人だったかもしれない。
 

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 不可能を可能ならしめるために 僕にできることは、制作工程をなるべく簡素化できるデザインを起こすことだった。これは制作費の節減と制作期間の短縮上絶対条件となる。いわゆるインダス トリアルデザイナーの仕事としては一般化していることだが、日本のクラフトマンの仕事としてはあまり認識されておらず、自分の扱う素材以外について総合的 な知見を有する作り手はとても少ない。これは専門教育の弊害とも思えるが、結果として異素材を縦横に駆使した魅力的な作品に出会うことは非常に稀なことで ある。
 さてこの作品の目玉はボッコリとび出した左右のトンボの目玉だ。ガラスと鉄でこのような造形をしようとするにはいくつか方法がある。一つ は鉄のフレームにあわせてカットしたガラスをはめ込んでゆく方法。これは飛行機のキャノピーなどの構造と同じだ。しかし、この作品のような有機的フォルム に2Dの板ガラスを無理に嵌めていくと、全体の有機的フォルムが確実に崩れてしまう。そこでガラス自体を3D化する必要が(僕には)生じるのだ。平らな板 ガラスを曲面化する方法、それがスランピングだ。さらに平滑なガラス面にテクスチャーを加えるグルーチップである。


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以 前よりグルーチップには関心があり、いつか使ってみたいと思っていたが、採用したのはこの作品が初めてだった。
ガラスの加工はガラス作家の友人に 紹介してもらった業者に委託した。その工房では膠を塗った板ガラスにブラスターで硅砂を吹き付けてチッピングしていたが、やはり天日干しによるチッピング の方がはるかに美しく自然な模様がつくり出される。ちょっと後悔した。

 ガラスのスランピングは自分の電気炉ではサイズが小さいため、こ の業者の工場で行った。左右のトンボの目玉のようなガラスを一枚物で可能な限り出っ張らせたかった。スランピングというのは、ガラスを加熱して軟化させ、 耐熱性の型の上で自重でたるませて成形する技法だ。温度管理が非常にデリケートな上に、水飴のように軟化したガラスは垂れ下がるときに伸びるため垂直方向 が薄くなる。電気炉のサイズからして最大20㎝が限度だということで、ぎりぎりの20㎝スランピングすることにした。しかも予算的な余裕がないため、なん としても1回で成功させねばならない。リスクを減らすためにはガラスの板厚を9㎜にしないと無理だろうということになった。さらにスランピングしやすい材 質のガラスで9㎜厚のものは色が透明ではなく、薄い緑色がかっていた。この色が後に悲劇の材料になるのではないかとの予感が走った。というのは、ガラスの 色を最終的にオレンジ色に仕上げる予定だったからだ。写真を見ての通り、ガラスの色はオレンジ色ではなくどちらかといえば緑色である。これが決定的に悲劇 の要因となってしまったのだ。

仕上がったガラスにエポキシ系の塗料で着彩してオレンジ色にしようとしたのだが、ガラスが薄緑色だったため発色が悪く、オレンジ色の塗料ではうまくいかなかった。そこで黄色の塗料を吹いてから赤で調整しようとしたが地色の緑がかかってどうしてもオレンジ色にはできなかった。そしてあのときの予感は的中し、完成品を工房に見に来た施主にキャンセルを通告されてしまったのであった。

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 あれから約15年、工房の移設とともに日の目も見ずに眠っていたこの作 品を、ついに手放す決心をしたのは昨年の暮れだった。
4年前に閉鎖した工房の梁にぶら下げてあった作品を昨日自宅へ持ち帰り、小雨降るなか旅支度 の化粧を施していて、思わず涙ぐんでしまった。そして今朝、ついに水戸へと旅立っていったのである。
 

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水底に 静かに眠る人柱 草木あわせて 冥福祈る [展 心 徒 然 草]

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 相模湖は戦後まもなく完成した相模ダムによって造られた人造湖である。その建設工事は戦争中も続けられ、多くの中国人・朝鮮人などが強制労働をさせられていた。そしてかなりの中国・朝鮮人が命をおとしている。 そんな建設犠牲者の追悼会が毎年開催されているのだが、10年ほど前から、追悼会場のステージ上に追悼モニュメントなるものを設置している。この写真は今年の追悼会用に僕が制作したポスターで、写っているオブジェは3年前に制作したものだ。

このモニュメント制作は僕と友人のイギリス人彫刻家で担当しており、毎年ボランティアで行ってる。 素材は極力相模湖周辺の天然素材、竹や流木などを集めて使っているのだが、追悼会前日の1日で制作設置しなくてはならず、毎回仕込みスタッフが足りず苦労している。

というわけで制作ボランティアスタッフ随時募集中です。興味のある方は是非ご連絡ください。ともあれ機会があれば、相模湖まで一度足を運んでみていただきたいものだ。


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石窯の 扉作りを頼まれて 頼まれもせぬ 煙突創る  [展 心 徒 然 草]

パンやピザを焼く石窯には以前より関心があり、研究開発中でもあったのだが、個人住宅用石窯の扉制作を依頼された。依頼主は石窯制作を請け負っている方で、金属加工部分の制作依頼だった。図面をもらってラフデザインをおこし了承をもらう。

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 子細は省くが、依頼内容に煙突は含まれていなかった。

条件は6㎜のコルテン鋼で制作すること。石窯本体との取り合い寸法をクリアすること。そして予算と納期である。

今の僕にとって一番の問題はデザインだ。実用性を損なうことなくいかに愛着をもてるかということである。これは制作意欲にてきめんに影響する。つまりいやなデザインのものは作れないということだ。

そもそもの依頼内容では、扉周りの前立て部分は一枚物の鉄板で構成されていた。これだけの面積が何の手もかけられていない鋼材のまんまのフラットな鉄板なんて、実にかっこ悪くてとても作る気にはなれない。せめて何らかのテクスチャーがほしい。そこでフリクションプレスでハンマートーンをつけることにしたが、そのために使用する機械の関係で、材料幅を100㎜に設定することにした。それで縦に溶接線がはいるデザインとなっている。ここまでではじめの鉄板一枚物での制作よりおそらく10倍くらいの手間がかかることになる。予算が変わらないのですべて持ち出しとなる。

P1030147.JPG 100ミリにおとした鉄板にテクスチャーをつけ、溶接して1枚の板にする。

 この増えた手間は全くもうけにはならないが、確実に意欲へと変換される。かけた手間暇は制作物への愛へと昇華されるのだ。

 

 

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 そして煙突はというと、市販のステンレス製のものを使うのだという。んんーーーーーーっ!!

この上につるぴかでぺらぺらのステンの煙突が乗るのはいうまでもなく許せない 。

思わず創らせてほしいと申し出てしまった。そしてこの仕事もまた、もうけのない仕事となるのであった。

ともあれ、煙突も同じテクスチャーに仕上げたフラットバーで六角パイプをこしらえて創った。

コルテン鋼6㎜の板厚の煙突は、50年でだめになることはまずないだろう。 

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くろがねの 馬の頬面赤めつつ 鎚打つヒビキに 暑さ忘れる [展 心 徒 然 草]

 永らく薄鈑をたたかなかったが、やはりおもしろい。

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 何がおもしろいのかといえば、カンを働かせるのがおもしろいのだ。

鉄板をたたいて造形するにはまず加熱しなければならない。しかし闇雲に加熱しても思い通りの形はできない。どこをどれくらい加熱するかを瞬時に判断しなくてはならない。さらにどこをどんな形の鎚で、どれくらいの強さでどの方向にどんな動きでたたくかをたたきながら同時に決定しなければならないのだ。これは力仕事であると同時に、非常に複雑な頭脳労働でもある。つまり、カンが働かなければこなせるものではない。

その全ての行為が鉄という素材にたたき込められてゆく。その鎚跡ひとつひとつに作り手のイブキを感じさせる鉄が好きだ。


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