馬の表札を創る その4 [制作現場写真]
さて、顔を作り込んでいくため顔全体のバランスをとるうえで、耳がついていないとイメージしにくいので、まず耳をこしらえます。
材料は肉厚2.3㎜のパイプを使います。写真右下に切り口の見えているパイプです。斜めにカットしてディスクサンダーで成形した後、火入れして鍛造します。
耳の付け根のくびれたところは、赤めておいてヤットコでつかみ、アンヴィルの上で回しながらたたいて絞っていきます。この程度の絞り具合だと3回赤めてたたけば絞れます。
アンヴィルの角を利用してニュアンスをつけていきます。アンヴィルの角は先の尖りがある鋼のアンヴィルを使うと気持ちよくニュアンスをつけられます。但し、使用するハンマーは目的に応じて自作しないと仕事になりません。
出来上がった耳を仮止めし、目の位置に石筆で当たりをつけてバランスを見ます。ま、こんなもんでしょうかね。
そろそろ首とつながないとわからなくなってきたので、胸板と首をたたきます。写真を撮らずに首をたたいちゃったんでいきなりですが、首にアタマが乗っかりました。
胸板や首の鍛造はほとんど切り株の上でたたいて曲面をつくります。溶接はすべてTIGでいわゆるガス棒を手持ちでさしながら接合します。ビードは後で顔面を鍛造する前にベルトサンダーやディスクサンダーで削り落とします。
ちょっと犬っぽいですね。馬らしくなるように鼻と上唇をくわえましょう。
鼻とクチビルも別に鍛造してTIGで溶接します。照明の花をくわえさせるので、真鍮で鍛造した部品をくわえた状態で赤めてたたき締めていきます。
だいぶ馬らしくなってきました。次はいよいよ目を入れて表情をつけていきます。
馬の表札を作る その6 [制作現場写真]
後頭部をふさぎたてがみをつける
しばらく間があいてしまいましたが、続きを書いていきたいと思います。
さて、目入れも終わって表情が決まってまいりました馬ですが、後頭部はごらんの通り開きっぱなしです。
デザインを起こした時点では、これほどまるまる立体にするつもりはなかったんですが、照明とのからみから、結果的に頭部は完全な立体になってしまいました。これからこの空きをふさいでいきます。
なるべく手数を少なくするため、一枚の鉄板でふさぎます。大まかな形の型紙を現物にあてながら作り、鉄板を切り抜いて外周をディスクサンダーで整形し、切株の上で大まかな曲面をつけていきます。鉄板の切り抜きはハンドシャーも使います。薄板(0,5㎜-2,3㎜)の切断には大変重宝します。
現物とあわせながら曲面をたたき出していきます。たたき出すといっても、この程度の曲面作りに関していえば、裏からたたくことはほとんどありません。木型のクセをうまく使って、表側からだけたたいて丸めていきます。ある程度たたいたらアワセをつけていきます。
この段階で、アワセを調整して仕上げにかかります。
ここから先はもう木型ではおさまりません。アンヴィルを使います。
アワセのあばれは溶接後の仕上げに影響するので、特に念入りにならしておきます。
アンヴィルの角についてはいずれ改めて紹介したいと思いますが、この角の使いこなしが鍛冶屋のキモだといえます。
さて、アワセが決まったらとっととつけちゃいましょう。例によって写真がありませんが、たてがみも型紙を作って切り抜いた鉄板をたたいて作ります。
ようやく馬は完成しました。次は切り文字としっぽを入れていきます。(つづく)
鶴は千年・亀は萬年 楠の金文字果たして何年 [制作現場写真]
東京西郊の瑞穂町箱根ヶ崎に創業明治五年という漢方薬の老舗がある。
瑞穂といえば20年ほど前に東京・立川から工房を移転した地でもある。その工房のお隣さんが地元の板金屋だったのだが、昨年からこの店舗の看板周りの改装を行っており、仕上げを銅葺きにする仕事を受け持っている。かつての縁でこの店舗の看板として、鶴亀瓢箪と金文字を創ることになった。
さて、金文字にも幾通りあるが、今回の依頼は金箔仕上げの金文字である。金箔といえば漆なのだが、漆には苦い思い出がある。立川に工房があった時分、鍛造した作品の仕上げに生漆を焼き付けたことがあった。当時隣に木工屋の工房があり、拭き漆で仕上げた製品を製作するために生漆を使っていたのだった。鉄の様々な仕上げを模索中だったこともあり、一度生漆を焼き付けてみたいと思っていた僕は、当時制作中だった椅子に焼き付けを試みた。
作品の表面は手ヤスリで入念に仕上げ無塗装の生鉄色の状態に調整した。その後、屋外にてプロパンのバーナーを使ってまんべんなく加熱し、鈍色になるまで焼き色をつける。ややさめて漆がシュッと焼き付くほどの温度の時にむら無く薄く漆を塗る。この作業を3べんほど繰り返したのだが、その際シュッと気化した漆を何回か吸い込んでしまったのだ。
元々かぶれやすい体質で子供の時から山で漆にかぶれたことも何度もあったのだが、蒸気吸引によるかぶれは実に別格であった。初め右脇の下から始まったかぶれは、今いうところの帯状疱疹のように半年かけて体中を螺旋状に移動していった。薬のたぐいは一切効かなかった。沢ガニをすりつぶして塗るといいと教わったが、捕獲できずに終わった。実にかゆい半年だった。
その後、木製の額縁に金箔を貼る仕事をしたことがある。このときは漆を加熱したりしなかったし、前回のこともあったので、相当な注意を払い、かぶれることはなかった。そして今回、またしても金箔を貼る仕事が巡ってきたのである。
制作は友人のスティーブと共に行うことにした。まず、木で文字を切り抜き整形して下地を創るのだが、漆に懸念を抱いていた僕は、樹脂系の塗料で下地を仕上げることを考え、金箔だけ漆で貼ろうと考えた。それで耐水性のある針葉樹合板を使って文字抜きをはじめ、全ての文字を切り抜いて整形をはじめては見たものの、刃物で彫り込むのには、最悪の材料だった。3日ほど彫り込んでは見たものの、やはりコレではものにならないと判断し、無垢材で作り直すことにしたいとスティーブに相談した。
スティーブは手持ちの材料に手頃な楠があるのでそれを使ってはということになり、早速・楠の無垢材で新たに全ての文字を抜き直した。
楠には樟脳の原料となる薬効成分が含まれており、彫るごとに芳香が香る。
しばらくは芳しき彫り物三昧に浸れそうだ。
表札の馬を創る その5 [制作現場写真]
いよいよ目を入れていきますが、中空の鉄板を表からだけたたいていきますので、あらかじめ顔面全体の凹凸をおおよそ仕上げておく必用があります。仕上がった目はなるべくたたきたくないので、目入れで押し込まれる分を見こして、いくぶん出っ張り気味に仕上げます。
顔面と目入れに使用するハンマーはこの6本ですが、直接顔面をたたくのに使ったのはほとんど中央の2本だけです。
中でもこのツチは特に活躍します。
酸素プロパンの加熱器で赤めながら慎重にたたき込んでいきます。
スガタカタチの善し悪しはカシラの仕上がりによって決まる。
ものつくりの仕事で最も重要なことは何かと問われれば、迷うことなくワザミガキだと答えます。
さて、いよいよ目を入れていきます。
アタマを縦万に固定して、石筆で当たりをつけます。
ここからはタガネを使います。
今回使用した4本のタガネです。右端のモノは市販品の平タガネですが、先端片面をえぐってアールにしてあります。2本目のタガネは20年ほど前に信州の古道具屋で見つけた3本の手打ち石のみの一本ですが、すこぶる鍛えがよく非常に使いでのある宝物です。3本目は9㎜の軟鉄丸棒をカットして先端を平らに仕上げたモノですが、細かい均しに使います。4本目はやはり古道具屋で見つけたポンチですが、先を丸めて局部の仕上げに使います。
有機的な曲線を彫り込まなくてはならないので、刃先の形状を曲線に仕上げます。写真ではわかりにくいかもしれませんが、刃先の幅の約3分の1のあたりを頂点として尖らせてあります。さらに頂点部分だけ砥石で刃付けしており、そこから両側はテーパーでエッジを丸めてあります。
目の輪郭を平タガネで入れていきます。
というわけで、例によって写真を撮るのも忘れてここまで来てしまいました。
ここからは全体とのバランスを見るため、首とつなげて最終位置決めをしてから仕上げました。この後右目も入れましたが、写真はありません。次は後頭部を仕上げ、たてがみを入れていきます。